2012年5月22日火曜日

歩くことと、自分が楽しむこと

奥野 恒久

あれは、4月の、桜の花が散りだした時分の日曜日。休日にしては早く目覚め、新聞を取りに外に出ると
天気がいい。ダラダラと二度寝するよりも「歩いてみるか」という気になり、「ならいっそ、琵琶湖を見に行こ
う」と、ひとり歩き始めた。京都市山科区の自宅から「小関越え」をして滋賀県大津市へと、途中、コンビニで
朝食用のパンと缶コーヒーを購入し、ゆっくり歩いた。少し肌寒い朝風が心地よく、長等公園の散りはじめた
桜の木の下のベンチで朝食とした。

 「さざなみや 志賀の都は荒れにしを 昔ながらの 山桜かな」(薩摩守忠度)

 源氏に追われた平忠度が、この地をさ迷ったのも、季節はこの頃だったのだろうか。

 それから大津港へ。朝日を映し、琵琶湖の湖面は輝いていた。少し腰を下ろして、琵琶湖の水面を見てい
ると、まだ朝だというのに、無性にビールが飲みたくなる。「今日は日曜日だし、かれこれ2時間近く歩いた
のだから」とコンビニを探そうとする本能と、「いくらなんでも朝から飲んではだめだ。アル中になるぞ」とブレ
ーキをかける理性とが、まさに格闘を始めたので、琵琶湖を離れ、浜大津駅に出ることにした。

 駅前のさほど広くない広場がやけに騒がしい。騒がしいといっても、うるさいのとは違う。いきいきとした
生活感のある、祭りのような騒がしさである。近寄ってみると、朝市をやっていた。「浜大津こだわり朝市」
である。毎月第3日曜日の朝8時から12時まで開かれるそうで、漁師さんの会が魚のてんぷらを揚げていた
り、山菜や野菜、お寿司に佃煮、餅つき…、とお客さんと一緒になって賑やかにやっている。少し調べてみる
と、「おいしさ、楽しさといっしょに大切なものを流通させたい」と、「顔が見える」にこだわり、地産地消、手づ
くり、土と水、旬と匠、食文化、「もったいない」、「ほっこり」を合言葉にしているという。

 人が溢れているわけではない。なのに、妙に活気がある。この活気は街づくりのヒントになるのでは、せめ
てRyu-SEI GAP「伏見わっしょい新党」の活動の参考になるのでは、と「チーム政策」の一員としての喜びと
責務感が刺激され、しばし観察を継続した。だが、この朝市、別に特別な趣向はなさそうである。老いも若き
も女も男も、売り手が皆、肩肘張らずそれぞれのやり方で、楽しそうに声をあげているのである。その様子は、
何か懐かしいものに出会わせてくれたかのようでもある。そうか、売り手が楽しんでいるのだ。売買という
行為も、人と人とが接する、本来、愉快なものなのだろう。まずは、売り手から楽しむ。祭りの原点を気づか
せてもらった。私も、「しじみごはん」を購入し、ほっこりした気持ちになって、今度は電車で帰ってきた。
どうやらビールを飲まなかったのは、正解だったようである。