2013年1月21日月曜日

ロンドンのたのしみ

naoota

2012年10月12日から17日、調査でロンドンを訪れました。今回のイギリス訪問の直接の目的は、日本の行政訴訟制度に相当するイギリスの司法審査の今日の利用状況、裁判所の司法審査に関する判例の発展と今後の見通しを知ること、特に労働党政権下に地方自治体のサービス改革の大きな柱として導入されたベスト・バリューを実現する自治体の義務をめぐる司法審査の状況を知ることが今回の調査の目的で、イギリスの法廷外弁護士(ソリシタ)の方々を中心とする法実務関係者の研究集会に参加させてもらい勉強してきました。
  主な目的は上記の研究でしたが、私はロンドンに行ったときには、必ずオーケストラのコンサートに行くようにしています。今回もロンドンを本拠とするフィルハーモニア管弦楽団の2つのコンサートをロイヤル・フェスティバルホールで聴きました。いずれもチケットは9ポンド(1,200円弱)。同管弦楽団の来日公演を聴こうと思えば一番安くても1万数千円は下らないところですから、本拠に行ったからには聴いてこないと損をした気になるのです。ロンドンでは、夏にロイヤル・アルバート・ホールという巨大円形ホールでの有名なプロムスというシリーズのコンサートが2ヵ月間にわたって開かれていますが、プロムスでは一番安い立ち見席(アリーナとギャラリー)が5ポンド(600円程度)です。そこには、イギリス国内だけでなくドイツ、ロシア等世界のオーケストラも来演します。このようにロンドンでは、私のような旅行者でも手軽に世界トップクラスのオーケストラのコンサートを堪能でき、音楽をはじめとする芸術・文化があらゆる人々の身近にあるように感じます。
  保守等・自由党連立政権のビッグ・ソサエティ政策(大きな国家ではなく、「大きな社会」の実現を目指すという政策)は、大幅な歳出削減を進め、省庁の予算を2014年までの4年間で平均19%削減するとされ、その影響が様々な分野で出始めているといわれていますが、オーケストラの演奏会にはまだその影響は感じられませんでした。音楽をはじめとする芸術・文化を支える財政を含む社会構造が日本とは異なるためか、歳出削減で真っ先に芸術・文化関係の補助金を削減しようとするどこかの行政と芸術・文化に対する行政の姿勢が違うことによるのかそれだけでも研究の価値がありそうです。

2013年1月17日木曜日

持続発展教育と文学

松岡 信哉

ESD(持続発展教育)という考え方が近年注目を集めています。
ユネスコのホームページでは、ESDの理念が要約されています。この要約によれば、ESDは過去30年に渡って行われてきた環境教育の成果を引き継ぐものであって、持続可能な発展(sustainable development)を実現するための行動計画は、水やエネルギー、農業、及び生物多様性など自然資源問題への考察を含む必要があると述べられています。
またESDでは、世界の自然資源保護のため、これまでとは違った自然との向き合い方を学習者が身に着けることが推奨されています。国連はESD推進のために2005年から2014年をESDの10年と定め、ESDの10年国際実施計画に沿って各種事業を展開しています。この実施計画では、ESDの特徴が具体的に示されます。一例として、すべての学問分野はそれぞれの仕方でESDという総合的な教育の枠組みに対する貢献をなしうる、と説明されています。またこの文書ではESDが体験学習の性格を持つべきだということが記されています。学際的特徴と体験学習がESDの二つの核をなしています。
ESDでは、喫緊の環境問題を学習者が理解すること、および学習者がこれらの問題の解決に向けて取り組もうとする態度を獲得することがその教育目標に含まれます。私は英米文学を専門に研究していますが、文学テキストは雑多な要素をその中に含む、総合的な芸術表現です。また、作品世界の疑似体験を通して、読者は表出された問題を生きた体験として理解することもできます。このような意味で文学テキストは領域横断性と体験的理解を重視するESDに適した素材の一つであると、私は考えています。ESDにおいて文学作品や芸術作品を教材としてうまく使う方法はないか、現在模索しているところです。