2016年2月9日火曜日

児童自立支援施設を訪問して




奥野恒久(政策学部)

201625日、本学の矯正・保護課程の教育活動の一環として、大阪府柏原市にある児童自立支援施設「大阪府立修徳学院」を訪問した。児童自立支援施設とは、非行や家庭環境、その他の理由により、生活指導を要する子どもたちに対して、心身の健全な育成を図り、自立のための支援をする施設で、全国に58施設ある。「修徳学院」には、現在、小学校3年生から中学校3年生まで、男子55名・女子27名の計82名が、10ケ(男子7寮・女子3寮)ある寮にて教育を受けている。1寮の定員は10名で、それぞれの寮で寮長・教母と呼ばれる専門性を持った夫婦職員が児童と共に暮らすことで、人間関係・信頼関係・共感関係の形成を目指している。児童たちは、7時の起床、清掃、朝食、朝礼に始まり、授業、作業、クラブ、就寝と共同生活を送っている。
大塚院長によると、児童たちの抱えている問題の第一に家庭環境がある、という。「母さんなんて嫌い 私が家に帰ったら酒を飲んで 酔って 切れて んで また優しくなって…」というのは、学院を卒業する前の一人の児童の作文だそうだが、家庭が落ち着ける場でなく、ときに「虐待」を受け、親が人生のモデルにならず、愛され方を知らない児童たちが入ってくるという。これまで誕生会をしてもらったことのない児童にとって、寮のなかで開かれた誕生会で、教母さんに手作りのケーキを出してもらったりすると、それはもう大いなる感激だそうだ。
家庭でも学校でも職場でも、一人の人間として他者と接することの大切さを改めて思う。同時にそれが困難な現在の日本社会をどう変革するか、政策学の一つの課題ととらえたい。また「世間は他人の批評をするときにはすべて道徳家になる」としばしば言われるが、犯罪や非行に接したとき、すぐにその当人を「悪人」にして叩くその拙速さも戒めたい。
「寮長」「教母」夫婦職員の大変さは想像に難くない。人間不信に陥っている児童たちと正面から向き合わなければならないのである。それだけに、重要な「仕事」である。「修徳学院」は、「責任の取り方を考えさせる」父性の役割と、「辛さや悲しみを共に理解し、受け入れる」母性の役割を強調されていた。性差を強調する教育が今日において必要か、私には疑問もあるが、夫婦制により児童と一人の人間として接する自立支援がなされていることは間違いない。
たとえば「虐待」をめぐっては、行政はもちろんのこと、保健師や保育士、教員、医師といった様々な役割の連携が必要であるが(参照、「虐待予防 温かな輪」毎日新聞201627日)、児童の自立支援も不可欠である。社会には実に多様で多くの問題が存在していることの一端を知り、その解決に向けて真剣な取り組みがなされていることも理解した。このことを学生たちと共有していきたい。