2010年9月15日水曜日

自転車とまちづくりと政策

土山 希美枝

アイルランドに調査に行ってきました。

メインは、大都市ではない地域でのまちづくりなのですが、今回目をひいたのは、日本でも最近話題になっている「公共レンタル自転車」が首都ダブリンでも展開されていたこと。

フランス、パリの「Vélib'」(ヴェリブ)。地球温暖化対策としての自転車利用をひろげつつ、首都中心部での移動を便利にするための、公共レンタル自転車のしくみです。多くのステーション、インターネットやGPS等を利用した配置や予約システム、安価な利用料などが好評で大人気となりました。世界から注目されています。ほかにも、ブリュッセル、ウィーンなどでも開始されています。

で、今回はダブリンでもそれをモデルにしたと思われる自転車レンタルサービスが開始。その名もずばり「Dublinbikes」。中心部40カ所にステーションがあるとのこと。地図を眺めてみるとなかなか便利なよう。3日分の利用料が2ユーロ(240円)、長期は10ユーロと、コストも低廉。街を歩いていると利用者に遭遇することもしばしば。

Dublinbikesの操作盤


英、仏、ゲール語で操作可。


ヴェリブ。パリっぽい?


パリの「ヴェリブ」09年夏。


アイルランドのDublinbikes


実は、日本でも、札幌で放置自転車を活用する「えきチャリ」というしくみが始まり、注目されています。ただ、ステーションの数や台数など、まだまだ限定利用の段階のようです。

では「このようなしくみを今後日本でも進めて行こう!」と思うかたも多いでしょう。日本で導入したらどうなるでしょうか?

わたしたちの身の回りで自転車はどのように走っているでしょうか? 道路交通法上でいえば、自転車は「軽車両」です。私たちが日頃目にしている、「歩道を走る自転車」は実は法令違反なのです。そして歩道。まちの中心部でも、とても狭かったり、路側帯しかなかったりしますよね。

啓蒙やスタイルだけでなく、政策として、温暖化対策に生かしたり中心市街地移動を便利にしたりするほど自転車利用を増やすとすれば、「歩道をノーヘルで走ることが当たり前」な状況(文化や慣習!)をどうにかしなければ、歩道での衝突事故が増えるでしょう。どうにかするとすれば「ヘルメット装着率を上げ、車道を走る」ことを推奨する、または「自転車道を整備する」あるいはその両方が必要になってきます。

パリやダブリンでも、ノーヘルで走っている利用者を見ました。歩道を走っているのも見ました。ただ、どちらももともと、車道を走るのが大原則で、自分の自転車で走るような人はメットの装着率も高い(車道を走るのだから身を守りたい人は被るでしょう)です。札幌は、車道を走る自転車は多くありませんが、都市のなかではかなり歩道が広い街です。都市計画された都市ですし、冬に雪で埋まるため道路も歩道も幅をとっているからです。

政策を考えるときには、その地域の事情や背景やひとびとの慣習や文化が密接に関わってきます。他の国や事例で生かしたアイディアのよさをどう生かせるか、「このまちで実現する」ときの現実性をふまえた想像力が必要になってくるんですね。みなさんだったら、パリやダブリンでのとりくみを日本でもやりたい、と思ったとき、私たちをとりまく「現在」を変えていく「政策」をどうデザインしますか? ぜひ考えてみて下さい。

参考URL
パリの「Vélib'」のとりくみ
(財)自転車普及協会 自転車文化センターのサイトから、小林恵三さんによる紹介(日本語)
http://www.cycle-info.bpaj.or.jp/japanese/report/rep07_6.html
ダブリンDublinbikesのホームページ(英語)
http://www.dublinbikes.ie/