2010年11月4日木曜日

里山活動のすすめ

谷垣 岳人

はじめまして。保全生態学という講義を担当します、谷垣岳人です。

出身は京都府福知山市です。福知山市は自然豊かな環境で、小学校時代は、野山を駆け巡り本当によく虫とりをしました。この虫は、どの時期にどの場所にいるのかという、地域の見取り図が未だに頭の中に残っています。場所だけでなく、さらにこの木のこの部分ではどんな種類がよくとれるという感覚をもち、地域全体(その当時の手に届く範囲の世界すべて)を遊び場としていました。後に、私がよく遊んでいた空間は、里山と呼ばれる場所であったことを知ります。

お盆の帰省時、記憶の地図を頼りに、かつて胸を躍らせた場所を巡りました。しかし、目当てのクヌギが老木化して集虫力(誤変換ではない)がなくなっていたり、逆に新たなフィールドを発見したりと、時の流れと自然環境の変化を生き物を通じて感じます。

現在、興味の範囲は広がり、昆虫・鳥類・ほ乳類の生態や、その生態の進化プロセスについて、研究しています。生物の生態の謎に迫るアプローチの方法はいろいろあります。DNAの配列情報というミクロの世界から、はるか昔の生態進化の過程を推定できます。さらに実際にフィールドに出て今を生きる生き物の生態を調査をするなど、マクロなレベルまで扱っています。

最近は、人が自然と共に暮らしてきた里山の生き物を調べています(しばらく滞っているブログd.hatena.ne.jp—200504)。里山とは、原生林と都市の中間にある、人の手の入った身近な自然です。これは家の中でも外でもない、縁側みたいなものです。縁側は、その中外のあいまいさゆえ、ふらっと外から人が来て、茶を飲んで帰って行くような、今の生活では失われつつある多義的な空間です。

実際の里山では、人々は薪や柴や山菜をとり、身の回りの植物を用いて民具を作っていました。つまり里山とは、生態系の中に人がいて、自然の恵みを直接感じていた場所でした。このような人と自然の密接な関係が失われてきた近頃、「持続可能なくらしのモデル」として、里山を見直す試みが、市民や行政レベルで行われています。

その最たるモノが、2010年10月に名古屋で行われた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の期間中に日本が世界に向けて発信したSATOYAMAイニシアティブです。SATOYAMAイニシアティブでは、かつての日本の里山にあった、人と自然の持続的な関係性に着目しています。それを発展させ、日本も含めた世界中の様々な地域において、伝統的な自然利用の方法に学び、また現代に合う形に変えて、土地と自然資源の適切な利用や、管理の方法を探り実践していくことを目指しています。その実践の中で、自然を保全し、また人間も豊かで幸せな生活をおくることを目標としています。

龍谷大学は、瀬田キャンパスに隣接する「龍谷の森」を所有しています。この森はかつての里山で、地域住民・大学生・行政など様々な主体が里山保全活動をしています。大学生を対象とした野外実習としてのフィールドだけでなく、私が世話人をしている市民ボランティア団体「龍谷の森」里山保全の会も活動しています。このように「龍谷の森」では、世代を超えた人々を結びつける縁側的な里山利用(現代的里山利用)を目指しています。

ぜひ皆さんも、人が自然と再び共に暮らす、縁側的里山利用について、一緒に考えてみませんか。