2010年11月9日火曜日

バングラデシュにて

岡本 健資

はじめまして。おそらく「仏教の思想」を担当します岡本健資です。

現在は、文学部講師で、出身も本学仏教学科です。専門はインドの仏教説話、特に紀元前3世紀にインド亜大陸を統一したアショーカ王の伝説を勉強しています。

サンスクリット語やパーリ語、チベット語など、古典語で記された文献を主として扱う私は、実際に南アジアに足を踏み入れることはありませんでした。

ところが、ついに先日、インドに足を踏み入れるのみならず、さらにバングラデシュにまで足を延ばすに至ったのです。そこで、憧れ続けたインドで腹痛に悩まされたことはさておき、皆様が知っているようで知らないバングラデシュの2010年8月時点の宗教事情の一端を、書き記してみたいと思います。

さて、バングラデシュとはどこにある国かご存知でしょうか?バングラデシュはインド東部に隣接した国で、ベンガル湾を囲むガンジス川河口のデルタ地帯を国土に含み、その東南部では、ミャンマーと接しています。人口は2009年度推定で1億4,420万人を超え、その90%以上はイスラム教徒で、ヒンドゥー教徒が少数派であることがインドとの最大の違いの一つです。仏教徒も当然少数派ですが、彼らは東南部のチッタゴンを中心として活動を保っています。その理由は、先に述べた通り、地理的に近接しているミャンマー仏教徒との交流が古くから続いているためです。

イスラム教を国教とするため、仏教徒も彼らの習慣を尊重して暮らしていることがうかがえました。特にラマダン(=イスラム教徒が断食を行う期間)の最中は、仏教徒がイスラム教徒の生活リズムに沿って暮らしているのを見ましたし、彼らがイスラム教徒とともに、ラマダン明けのパーティーを楽しむこともありました。

いろいろな考えを巡らせつつ、私たちは東南部のコックス・バザールにある、ミャンマー風建築の仏教寺院を視察しました。そこで、私たちは次のような光景を目にしました。



イスラム女性の特徴的な装いである、布で頭を覆った女性たちが仏教寺院内に立っています(写真右下)。彼女たちは仏教寺院で何をしているのでしょうか。彼女らはしばらくお堂の外で待っていましたが、堂内に招かれ、中に入って行きました。我々が取材したところでは、この寺院の僧侶は、人々に求められるまま、お守りを渡しているのだそうです。もちろん、お守りはイスラム教徒にも分け隔て無く与えられ、彼らの尊崇をも集めています。

首都ダッカ周辺では、イスラム教徒との軋轢が報告され、不当に土地が奪われたとも聞き及びます。しかし、少なくともここでは、イスラム教徒によって異教の尊格が排斥されることもないようです。このような光景を見ていると、一宗教が他宗教を排斥することが不自然に思えてきます。バングラデシュの片田舎で、さまざまな宗教が一つの地域で共存する可能性を感じることができました。