2011年8月30日火曜日

「学生記者出動 マスメディアにパブリック・アクセス」

松浦 さと子



 若者離れが著しいと言われる「新聞」。今ではたいていの記事をパソコンやスマートフォンからも読むことができるので「紙」の新聞はなおさら学生には縁遠いものになってゆく。そんななか京都新聞社の稲庭記者から「紙面のパブリック・アクセス(読者が記者として参加)を可能にするから、記者体験をしてくれる学生さんはいませんか」との呼び掛けをいただいた。長らく大学担当として学生や教職員の動きを丹念に取材して来られ、大学のことなら私たちよりはるかに詳しいベテラン記者だ。その稲庭記者が毎週水曜日夕刊の見開き2面の枠を使って、大学生たちに何でも書いていい、と。 

 問題により近い立場から当事者自身が発信するパブリック・アクセス。最近の潮流ともいえるが、見開きのスペースは余りにも大きすぎる。その枠に展開できるだけのテーマを見つけ、取材先を訪ね、書くべき要素を聴きとり、記事にまとめるようなことが、短期間のレクチャーで遂行可能とは思えず、とても引き受けられないなと、後ずさりしていたところ・・・。

 頼もしいことに政策学部1回生女子を中心に「書いてみたい」という手が挙がった。最近まで高校生だった彼女らにそう簡単には書けるはずがないのではとの私の心配をよそに、稲庭記者は毎週の自主ゼミを訪ねてくださり、学生記者企画の主旨をレクチャーして下さった。「客観報道とはいわない、君たちの主観をもっと」「学生が何に興味を持って、誰に寄り添って、どう共感しているのかを 読者は知りたいのでは」「永く続けている活動や、地域で培った関係はないのかな」「関心のあるテーマを各人それぞれ出し尽くして、記事にするかどうかは別にして、まずは話を聞いて来てはどうだろう」 



稲庭記者から紙面編集への参加を呼び掛けられ、記者の仕事の現状についてレクチャーを受ける






  新聞への「パブリックアクセス」の主旨は、企画から表現に至るまで、学生自身の意思で書く、ということだ。従って稲庭記者もコーディネーターのつもりの私も強制や誘導はしない。それでもつい、震災ボランティアに行った学生や教員の体験談や、地域の災害対策を聞いてはどうか、などと声をかけてしまう。しかし何も決まらない週が続いた。 

 龍大新聞社主幹のFくん、「マスコミ論」の授業の受講者、学部を越えてこのプロジェクトに参加しようとする学生や大学院生も単発でブレーンストーミングにやってきた。「私だったらこんなテーマで」「僕だったらこう書く」と、学生記者たちに熱く語りかけてくれた上回生のみんな、ありがとう。ジャーナリスト教育のベテランで法学部のN先生もMixiで優しく励ましの言葉をかけてくださった。感謝に堪えない。

 新聞社の編集会議で文化部記者のみなさんとも引き合わせてくださり、本職の記者が必死にパソコンに向かう夕方の編集室を見学させていただいた。他大学の記事は3回生、4回生、院生が書いている、1回生で挑戦するんだから胸張って行こう。そんな空気を作ってくれたのが3回生のクラスサポーターのNくん。今回、1回生記者のまとめ役として、チームのリーダーシップを取り、現場を和ませ、とてもいい雰囲気の写真を撮ってきた。稲庭記者のアドバイスを得て、夏休みの最中だが、今ごろみんなで最終校正をまとめている頃だ。 

 さて、今週(たぶん明日8月31日)水曜夕刊、ついに龍大学生記者の「@キャンパス」第一弾が掲載される。乞うご期待、どうかご批判、ご講評のほどを。 そして、後期も学生記者を募集するので、我こそはという学生は、企画を持って参加を。   京都新聞 http://www.kyoto-np.co.jp/ (ただし、学生記者の記事は、ウエブサイトからは読めません)

※8月31日(水)京都新聞夕刊2-3面に龍谷大政策学部自主ゼミによる@キャンパス「カフェからはじまる」が掲載されました。

追伸

 読者や視聴者が受け手ではなく、発信者としてメディアに参加してゆくパブリック・アクセスについては、東日本大震災の後、衛星放送でも意義深い試みが始まっている。BS11で火曜日夜10時台に放映されている『IN side OUT』という報道番組の最後の3分間。政策学研究科修士課程の院生、池田佳代さんが企画から関わり、第一回放送の特別番組では45分間の司会を務めた「今、私たち市民にできること」という枠だ。出演者は全て放送のプロではない。被災地に向かったボランティアや被災者自身、障害を持った人々や外国人が当事者として撮影、レポート、インタビューを務めるというものだ。池田さんは、『新聞研究』N0.721に「市民による震災報道プロジェクト パブリック・アクセスの可能性示す」と題して、活動を報告している。   

  もうひとつは、CS放送の朝日ニュースターで毎週木曜夜11時15分から放送される『ContAct』。私も京都のニュースを伝えたご縁があり、これら放送におけるパブリック・アクセスについては、後日またこのブログで詳しく紹介する。 まずは放送をご覧ください。

これまでの放送を視ることができるサイト

   東日本大震災「今、私たち市民にできること」http://dekiru.or.jp/

    「ContAct」 特定非営利活動法人OurPanetTV 制作  

      http://www.ustream.tv/channel/ourplanettv  http://www.ourplanet-tv.org/

参考 津田正夫・平塚千尋編 2008 『新版 パブリック・アクセスを学ぶ人のために』世界思想社          

    金山勉・津田正夫編 2011 『ネット時代のパブリック・アクセス』世界思想社