2014年3月9日日曜日

Snowman

中森 孝文

修士論文の発表会があった。私の指導した院生も2人が修了することになった。
 そのうちの一人は中国からの留学生。彼女は3年前に日本にやってきて大阪の日本語学校で1年間学び、一昨年に大学院政策学研究科に入学した。彼女が日本にやってきた理由は、「世界の工場」と言われている中国が、今やインドやアフリカの台頭によりその地位が脅かされている。今後の中国にはコスト(人件費)の安さだけでなく、付加価値の高い製品づくりが必要になる。それには労働者の定着が必要になるが、賃金の高い企業へ転職することが多いといわれる中国人労働者を、どうすれば企業に定着させることができるのかについて考えたいということであった。そのために、わざわざ「知的資産経営」を学びに私のところに来たのだという。
 たどたどしい日本語、経営学も統計学も学んだことがなく、数学も苦手な彼女であったが、必死に人的資源管理やモチベーションなどの先行文献を読み、統計の勉強もこなした。2年生の夏休みには広東省の企業で働く数百人にアンケートを配付し、数ヶ月をかけて統計分析ツール(SPSS)を駆使し一つの結論を導きだした。
「中国人もお金だけでなく自分のキャリアアップができる職場を求めている」というものだ。それに応えるには、企業は自社の将来性を示すとともに、従業員には「安心」と「キャリアアップの仕組み」の両方を提供しなければならないというものだった。まさに無形の強み(知的資産)のマネジメントとその開示が必要なのだという。
 最近、世界シェアを有するある日本企業の経営者に話を聞いた。中国での日本企業の中には離職率30%超えという企業がある中で、10%を切っているという。中国人従業員とともに開発課題を設定し、一緒になって課題解決策を練っているとか。課題が解決できたときには皆で抱き合って喜び合うそうだ。
 慣れない異国の地で導き出した彼女の一つの結論は、偉大な経営者らがあれこれ考えてたどり着いた人事マネジメントと同じだった。
 最近、グローバルな視点とローカルな視点の融合によるグローカル教育プログラムが開発されている。得てしてグローバルと言えば海外の考え方を我が国に導入することだけに着目してしまう。日本的経営にはいろいろ課題もあるだろうが、ローカルな経営手法がグローバルに通用することを、自信をもって説いていくのもグローカル教育なのだと思う。
 彼女からもらったSnowmanが、そう語りかけているように見える。