2011年2月14日月曜日

朝の散歩 挨拶 賀茂の川原

矢作 弘

終日、研究室でパソコンに向かっていることが多い。運動不足のために体調が悪くなります。そこで近ごろ、できる限り歩くことを心がけています。

 最初にしたことは、自転車のタイヤの空気を抜いてしまうことでした。どうも意志が弱く、易きに流れがちですので、乗れなくしてしまえば歩くしかない、という非常手段です。

 朝、家から大学(大阪市立大学)まで遠回りをして歩いています。およそ40分の距離です。大和川の河岸を少し早足で歩くのですが、この季節、ヒヤッとする川風が薄っすらと小汗をかいた肌にとても気持ちがよい。行き交う人に「おはようございます」と挨拶をします。それに対する反応の違いがおもしろい。にっこと笑って「はい、おはようございます。よく晴れましたね」などと返事をするひとから、「えぇ? 面識のない私になぜ挨拶を・・」と怪訝な顔付きのまま無言で去っていくひとまでいろいろです。

 調査でニューヨークに行くときは、セントラルパークの近くに宿をとります。朝、散歩をするためです。私の「Good Morning !」の挨拶に対する反応は、大和川河岸の出会いと同じくいろいろなのですが、それとは別にある発見をしました。

 ヘルメットを被り、サングラスを掛けて颯爽と走り去る自転車乗りは、7、8割がイヤフォンか、ヘッドフォンをし、CDか、ラジオを聞いています。ジョッキングをしているひとのイヤフォン/ヘッドフォン率は、5割前後です。歩いているひとになると、その率が2割程度まで低下します。

 ところが犬と散歩をしているひとに、イヤフォンやヘッドフォンをしているひとはいないのです。イヤフォンやヘッドフォンをしているひとは、自分の世界に閉じ篭っているのですが、犬の散歩に付き合っているひとは、きっと飼い犬と会話をしながら歩いているのです。実際に声を発していなくとも、少なくとも心の内では犬と会話をしながら散歩をしているはずです。そのときの心情は、間違いなく外向きなのです。そうした「外交的な」心情が、イヤフォンやヘッドフォンをしないという行動として表出し、可視化されるところがおもしろい。

 自転車乗りに対しては、「Good Morning!」と声を掛けることすらできないのですが、ジョッキングするひとも、こちらの挨拶に対する反応が悪い。犬との散歩は歩いたり立ち止まったり、普通に散歩をしているひとに比べてはるかに歩調は遅いのですが、私の「Good Morning!」には、きっと素敵な挨拶を返してくれます。スピードと挨拶の間に、反比例の関係がありました。

 4月から京暮らしをはじめます。賀茂の川原を朝、散歩をすることにしています。「おはようございます」に、都のひとはどのような反応をするのかしら・・・