2011年2月18日金曜日

英国調査にいってきました

的場 信敬

私たちは現在、京都府内の7つの大学や地域の自治体、企業の方々と協力して、地域の運営(公共政策)を担う人材のための新しい地域資格「地域公共政策士」のフレームワークを開発しています。多様化する地域の課題に対応するためには、どのような資質や能力を持つ人材が必要になるのか、私たち大学だけでなく学生の雇用主となる方々(自治体、企業)にも協力して頂き、新たな人材を育成し社会に定着させるようなしくみを考えてきました。ちなみに、大学が考える人材育成については、2010年11月24日の石田先生の記事も参考にしてください。

この京都発の地域資格を開発する上で参考としたのが英国のしくみです。英国では、日本の弁護士資格や医師免許のようないわゆるライセンス型の資格と共に、特定のスキル(例えばチームリーダーとしてのスキル)を証明するような資格が国レベル・地域レベル問わず数多く存在しています。先日、この英国のしくみを改めて調査する機会を得ましたので、今回はそのご報告をしたいと思います。

英国の資格フレームワークは、その構造の改革(大学資格〔学位〕と職能資格のリンク作り)がまず面白いのですが、今回はその構造改革の先に見据える社会改革について考えてみたいと思います。その社会改革のために英国が目指す資格システム像は次の2つに要約できそうです。

1) 雇用主と学習者のニーズを最優先に考えた資格・学習システム
2) そのための、より柔軟性の高い、短期間・小サイズの学びのシステム

まず1)ですが、英国の資格フレームワークの改革は、単なる教育・研修の改革にとどまらず、明確に「雇用」の再生を視野に入れています。英国は日本と違って終身雇用の習慣があまりありません。自治体、企業、そしてNPOも、職員がどんどん変わっていくわけですが、それだけに雇用主側としては、常に有能な(かつ可能なかぎり)即戦力の人材を求めています。そこで、教育・研修機関が雇用主と連携して、時代のニーズに合った人材のための資格や教育・研修カリキュラムを開発する、ということが活発に行われています。また、そのようなプログラムを受講する学習者に対しても、受講料の補助のしくみなどが用意されています。このように、雇用主と学習者(=雇用者)双方に有益な状態を作ることで、社会全体の雇用の改善にも寄与していく狙いがあります。

2)については、これまでの学びのかたちは、大学の「学位」であれ職業能力を証明する「ライセンス」であれ、長い時間と労力、お金をかけてこれらを取得して、はじめて意味のある資格として社会に認められました。それはそれで重要なことですが、終身雇用の習慣の少ない英国はもちろん、働き方が多様化してきた日本においても、よりフレキシブルな学びのかたちが求められているといえます。たとえば、資格のカリキュラムの一部を短期間で受講して、その部分で得たスキルを「サブ資格」のようなかたちで可視化する。英国ではこれを「ユニット」と呼びますが、これ1つでも自分も学びを証明できるほか、他のユニットも少しずつ学びこれらを積み上げることで、最終的にひとつの「フル資格」を取得することも可能になるようなしくみが整備されつつあります。このしくみでは、学習者は時間や予算などを考えながら自分のペースで学習ができますので、最近よく言われる「生涯教育」の促進にも寄与できそうです。

もちろん、このようなしくみを社会で機能させるには乗り越えるべき壁も多いのですが、「雇用」という深刻な社会・経済問題に、「個人の学び」の改革によって社会全体を底上げしつつ対応していく、という英国のスタンスには、学べるところが多いと感じます。私たちの地域資格「地域公共政策士」のフレームワークもはじまったばかりですが、目指す社会像は英国のそれと共通しています。社会を担う人材(=皆さん)を輩出する組織として、大学がどのような学びを提供していくべきなのか、私たちは常に考えています。

なお、この資格のプログラムは学部在籍時からスタートできますので、龍大にいらっしゃったらぜひ皆さんもチャレンジしてみてください。

☆ 写真は同僚が撮ってくれていたのであまりないのですが、左から、バーミンガム中心地の街並み、新たな資格フレームワークの運営を担う全国組織「Ofqual」のオフィス、コベントリーの聖ミシェル大聖堂。