2011年3月2日水曜日

生物多様性と人の暮らしと原発

谷垣 岳人

週末の2/26-27は、原子力発電所が建設中の山口県熊毛郡上関町長島と対岸にある祝島に行ってきました。長島の自然を守る会の高島美登里さんや滋賀県立大学の野間直彦さんに現地を案内していただきました。

長島田ノ浦


上関のあたりの海は、透明度が15mにもおよび、ため息の出るような美しい海でした。瀬戸内海では珍しく自然海岸が続き、陸に降った雨は湧水として海底からわき出しています。都市部を通ってくる大きな河川もないためか、海底の砂地には多くの生き物が暮らしています。スナメリという背びれのないイルカの仲間や、カンムリウミスズメという海鳥がいます。なんとか見つけようと波間に目をこらしましたが見つかりませんでした。海岸には、瀬戸内海では幻の生物とされる生きた化石カサシャミセン(貝のようで貝の仲間でない)や、ヤシマイシンという巻き貝の祖先など珍しい貝類の宝庫だそうです。今回は時間がなかったので、またゆっくりと潮だまりの生き物観察をしたいと思いました。

長島の海岸沿いの陸には、カクレミノ・タブノキ・幹がまだら模様のカゴノキなどの常緑樹がありました。カクレミノには成虫で越冬するタテジマカミキリがいるので、思わず歩みが遅くなります。タブノキの巨木も多く、夏になれば紅色に黒点模様のホシベニカミキリもいそうです。ふだん関西の里山を歩いているので、見慣れない常緑の木々から、違う土地に来ていること実感します。

カゴノキ


この心打つ景観ですが、山を削り海を埋め立てる原子力発電所の建設が進んでいます。原発が建設されると、海の生き物は大きな打撃を受けます。埋め立てという物理的な影響だけでなく、取水時に比べて約7度も高い温排水による影響です。排出量が多いので周辺海域の温度が上昇します。わずかな温度上昇でも海の生き物、とくに卵や幼生に大きな影響を与えます。そのため今までとれていた魚や海草が採れなくなり、島民の暮らしが脅かされる可能性があります。

そもそも、こんな生物多様性が豊かな海に、なぜ原発を建てる許可が下りたのでしょうか。どうやら、開発ありきのずさんな環境アセスメントだったことを知りました。

原発建設現場


原発建設地の対岸にある祝島では、反対運動がなんと30年も続いています。島の人々は、原発建設による漁業補償金の受け取りを拒否し、美しい海を守り、そこの海の幸を受けながら暮らすことを決断しました。さらに自然エネルギーによるエネルギー自給率100%を目指す取り組みも始まっています。1% for 祝島<http://www.iwai100.jp/supporter.html>。同年代の地元の方の話も聞き、この海を守り、ここで子供を育て暮らしていくという決意にたいし、胸が熱くなりました。

気になったのは、この地域の電力は足りているため、この原発で作った電気が、関西で使われる可能性があるということです。関西に住む我々は、日々使う電気がどこでどうやって作られているかなど、ほとんど気にすることがありません。しかし、原発建設により失われる豊かな生物多様性があり、それを守ろうとする地元住民の保護活動が、今この瞬間も続けられていることを知りました。

この事実を広く伝え、せめて、身近なところから自然エネルギーを使う生活を始めなければと意を新たにしました。