2011年5月27日金曜日

旅先での、美味しいレストラン探しの極意

矢作 弘

手元に、マルタン・モネスティエ著『図説排泄全書』があります。おまるや穴なき椅子、便座、便器のS字管、旧ソ連宇宙基地のトイレまでその形態と使い勝手を詳細に考察し、この分野の名著です。モネスティエは「ひとはそれぞれ自分のやり方と趣味に従ってトイレの設備を整える」と書いています。
旅をして大切なのは、ホテルとレストラン探しです。よいホテルの条件は、シャワーの湯の出がよいこと、そしてベッドのシーツがきれいにアイロン掛けしてあることです。一度就寝すれば朝まで目が覚めないのですから、それで充分なのです。ところが美味しいレストラン探しはなかなか難しい。前期高齢者の仲間入りが間近に迫り、今後、取れる食事の回数に限りある齢になると、毎度の食事を疎かにするわけにはいかない。そう考えると、益々、旅先のレストラン探しは大事になります。
アフリカを除く4大陸を旅し、毎夕、美味しいレストラン探しのために街を徘徊しました。その結果、「レストランの料理のレベル」と「トイレのアート」の間に、相当高い確率で相関関係がある、という貴重な知見を得ました。さすがのモネスティエも、その間の関係性を指摘していない。この知見は、美味しいレストラン探しで幾多の失敗を重ねて習得した、私に独自の発見なのです。モネスティエが説くように、トイレの施設には、ひとそれぞれの趣味の良し悪しが端的に表出するとすれば、レストランの「トイレのアート」にも、シェフの趣味が色濃く反映しているはずです。そしてシェフの趣味がよければ、彼の料理のレベルも高いはずです。
「トイレのアート」とは、トイレの扉の「男厠」「女厠」を示す図柄のことです。読者諸兄は、あの際、先を急がれているために扉の図柄などまったく記憶に残っていないでしょうが、男、女を意味する「M」「F」の単純無愛想なタイプから、下記に添付した絵柄まで様々です。「男厠」「女厠」を示す図柄をチェックし、それがおしゃれなレストランはきっと料理のレベルも高い―――というのが、私のレストラン探しの経験則でした。
「朝露の一滴にも天と地が映っている」は開高健の名言ですが、「レストランのトイレの扉には、料理のレベルが映っている」というのが、世界の街を歩いて得た私の確信です。
読者諸兄、是非、この格言をお試しあれ! 
「トイレの扉の図柄を、どうやって事前にチェックするのか」ですか?
簡単です。目当てのレストランを訪ね、「ディナーの予約をしたいのでメニューを拝見させてください」と料理と値段を吟味する風情を見せ、おもむろに「ちょっとトイレを貸してください」と切り出せばOKです。先方は、ニコニコ顔でトイレを案内してくれます。実際にディナーの予約をするかは、トイレを観察した後にお決めなされ。