2012年3月19日月曜日

マッシュポテトの比較「論」的考察?

白石 克孝

本日のお題は、アメリカ、イギリス、アイルランド、ドイツ、フランスのマッシュポテト比較研究です。 

構造変化による衰退に直面した「まち」「むら」の再生の海外調査によくでかけます。
最近では、フィールドに出るというよりも、会議室でのやりとりが多く、いま外国にいるか分からなく
なることも多いです。 

それもあって、必ず当地の食事やお酒を楽しむようにしています。日本からの同行者によっては、
毎食それでは耐えられないので、日本食やアジア食に「逃げたい」という人もいますが、私は断然
現地食派です。 

今回は、マッシュポテトについて、「比較研究」してみましょう。そうです、ふかした芋を押しつぶして
(丁寧には裏ごしして)つくる、あのマッシュポテトです。 

ヨーロッパ系の料理では、ジャガイモは重要な食材です。副菜としてだけでなく、主菜、さらには主食
としての位置を占めています。マッシュポテトは副菜として、カジュアルな料理だけでなく、本格料理
にも添えられます。 

マッシュポテトにグレイビーソースなる「粘液」をかける食べ方があります。アイルランド、イギリス、アメ
リカで食べることができます。世界中に広がっていないことから判断しても、「普通の味」としての地位を
獲得するような味ではありません。個人的には楽しんでいますが。 

アイルランドでは、普通のジャガイモをマッシュして手作りのグレイビーソースをかけて出されることが
多いです。これに対して、イギリスではグレイビーソースが量販の加工食品の流用になることが増えて
いきます。そしてたどり着いたアメリカでは、まずマッシュポテト自体が粉末にお湯をかけて混ぜて作る
ものが増え、グレイビーソースも粉末を溶いたものといった水準の加工食品が多くなるように感じます。 

味の平均値は、アイルランド>イギリス>アメリカになります。同じルーツをもつ料理を比べることで、
食文化の退化と商工業の進化をみることができます。 

またイギリスのパブなどで塩味のマッシュポテトが供されるときには、塩・こしょうなどの調味料はかけ
られておらず、テーブルでお客が自ら調味します。著名なフィッシュ・アンド・チップスも同様に味付けは
自分でします。ビールに合う味です。ビールでもなければ食べることができないという口の悪い友人も
いました。ドイツでは多品種のジャガイモが多様な調理法で供され、ドイツ料理の重要な柱となってい
ます。塩味のマッシュポテトの場合には、調理側でしっかりと味付けされています。日本人にもっとも受け
入れられる味かと思います。多くは別皿に盛られて出てきます。これまたビールに合う味です。 

フランスで体験したマッシュポテトは、定型的ではないところに特徴があります。塩味のマッシュポテトの
場合でも調理人の個性が活かされます。カジュアルなお店で体験した例では、ジャガイモからマッシュポ
テトを裏ごしでつくって塩味を整え、生クリームソースをかけてオーブンで焼くといったものがありました。
これは単独で注文したメニューではありません。当然、別皿で出てきました。やはりワインと一緒にという
味になっています。 

イギリスの料理が世に言われているほどまずいとは思いません。過去十数年の間のグルメブーム、調理
器具や調味料さらに食材の改善で、初めて体験した20年少々前と比べれば、ひどい調理をするパブなどは
本当に減ったように感じます。それでも料理に対する基本姿勢や文化が、ドイツ、フランスとは、斯くも異な
るわけです。 

だからといって、フランスのそれぞれに工夫されたマッシュポテトがまた食べたくなるかというと、話は別に
なるのが面白いところです。グレイビーソースがあれば注文したくなりますし、同じ皿にほかの料理と一緒に
盛られてその油や味を吸い込んだイギリスの手元塩味調味も定番感があって悪くないです。高級感のない
ところに、家庭料理の普段の一品であることに、マッシュポテトらしさを感じている訳です。 

政策学の分野で比較研究をする目的は、優劣を決めることではなく、タイプを析出することにあります。
さて、私のマッシュポテト論は比較論になっているでしょうか(笑 え、比較軸は何ですかって??

 
          アイルランドのパブ                     イギリスのパブ                          ポテトフレーク


【写真説明】
イギリス・アイルランドでは、歴史的な雰囲気をたたえたパブが、各地にたくさん残っています。
しかしイギリスでは、ビールの自家醸造所を持っているパブは減り、経営も日本のコンビニのように
フランチャイズ化が広がっています。
それでもファミレスのように同じ外観や内装にはしないのはさすがと思います。 

このフレークをお湯や暖かい牛乳で溶くことで、マッシュポテトを作ります。