2013年12月6日金曜日

多数派権力の「恐ろしさ」を記憶にとどめたい

奥野 恒久

2013年12月6日、今日にも、特定秘密保護法が成立する見通しである。この法案、国民主権原理に反し、知る権利や取材の自由を含む、表現の自由(憲法21条)を侵害し、広く人々を委縮させる効果をもつため、憲法学を研究する者として、憲法違反と断ぜざるをえない。とりわけ、主義主張や飲酒の節度まで調査するという「適性評価」制度は、学生を社会に「巣立たせる」教員として、震えるほどの恐ろしさを感じる。
 だが、ここで問題にしたいのは、この法案の中身ではない。政策学部という本学部が研究対象の一つとする政策形成や政策決定のその前提となる民主主義についてである。毎日新聞の世論調査では、この法案への「賛成」が29%で、「反対」が59%であった(11月12日)。朝日新聞や日経新聞の調査でも、「反対」が50%を占めている。「反対」あるいは「慎重」というのが国民の声である。にもかかわらず、強行しようというのが政府与党である。また、国会論戦も、例えば公聴会で出された指摘を反映するのではなく、あたかも「無視」して翌日に採決を行うなど、主張内容の力ではなく数の力だけの「論戦」である。それが今の「国権の最高機関」(憲法41条)たる国会であり、今の日本の民主主義である。
 だが、そのような議員を選出したのは、ほかならぬ国民ではないか。その通りである。2012年12月の衆議院選挙、2013年7月の参議院選挙を経て巨大与党が誕生し、「ねじれ」も解消して今の国会にいたっているのである。
 ならば、今の国会は、民主主義を考える者に多くの課題を与えてくれる。例えば、先の二つの選挙で与党が大勝した要因は何か。衆議院では小選挙区制という制度を採用しているがこの制度に問題はないか。選挙を報じるメディアの報道はどうだったか。選挙時の国民意識はどのように形成され、それぞれの政党は何をどのように訴えたか。あるいは、本来、国会の論戦はどうあるべきか。国会論戦と世論との関係、国会運営の手続と法、二院制の役割。さらには、多数派とて侵すことのできない人権という理念を今どう構成し、どう活用すべきか、などなどである。政策学部のスタッフは、政治学、法律学、経済学、社会学はもちろんのこと、メディア論、コミュニケーション論、市民運動論など多様な学問分野の研究者で構成されている。まさに、今の国会を題材としての「民主主義の再生」という課題は、学部をあげ、教員、院生、学生を巻き込んでのテーマだと言えよう。
 だが、その前にどうしても記憶にとどめておきたいことがある。多数派権力は「やりたい放題」にすることができ、「恐ろしい」という事実である。「ファッシズム」と闘う覚悟が必要なのかもしれない。